First Day Inside Someone Else

オリジナルSF小説。賞金稼ぎのアンドロイドが、自分を捨てた所有者に言われた言葉の意味を知るため、無法地帯の惑星で出会った青年と賞金稼ぎをする話。

誰かの中の1日目

First Day Inside Someone Else

2017

西村 烏合

賞金稼ぎのアンドロイド・アレックスは、所有者に捨てられてから一人で生きてきた。惑星を渡り歩き、訪れた無法地帯の惑星キャラバン・プラネット115も、一稼ぎしてすぐに出ていくつもりだった。
だがそこで一人の青年セスと出会う。

「いつハポの使者たちに見つかるかわからない。そしたらどっちにしろ、ぜんぶ駄目になる。殺されたほうが幸せだ」
セスの言葉は、アレックスが所有者から言われた言葉とはまったく違うものだった。

アレックスは自分を捨てた所有者が言った言葉の意味を知るため、セスは故郷の政府の使者から逃げる金を手に入れるため、二人は一時的協力関係を結ぶ。

(GAY/QUEER + SF をテーマに書いた最初の小説で、トランスジェンダー男性の登場人物が出てきます。ゲイ描写は若干ありますが、メインキャラクター同士の描写ではないです。性的な場面はありません)

※注 校正・推敲を再度行った電子書籍化にあたり、このウェブサイト公開版は旧バージョンとなっています。

↓電子書籍版↓

誰かの中の1日目 (書き下ろし掌編・キャラクターイメージ画付き) – Cavernous [Ugo’s shop] – BOOTH

目次


chapter 1
chapter 2
chapter 3
chapter 4
chapter 5
chapter 6
chapter 7
chapter 8
chapter 9
chapter 10
chapter 11
chapter 12
chapter 13

 

作者が人工生命体大好き野郎なんで、アンドロイドとかホログラム生命体とかめちゃ出てきます。そういう存在のほうが多い(^ω^)

Farther Than Pale Blue Dot ch.1

ここは淡い青よりも深く遠く

 

chapter 1

いつ、こうでなきゃいけないってのに取り憑かれるのか?
私たちは地球という惑星から植民しました。そう教えられた時か。それとも。

「サー、失礼ですが階級を確認してもよろしいでしょうか」
 おれはグラスを下ろしてバーテンダーに笑いかけた。今夜あなたの部屋に行ってもいいわ。そんな笑顔で。彼はニコリともせず持っていたタブレットをカウンターに置いた。
「つれないな。少佐の誘いを断るのか?」
「連邦軍調査船史上、最も高い階級ですね。本当なら」
 タブレットには、地球連邦軍人というより反政府組織のメンバーみたいに世の中を憎んでる顔のおれの写真が表示されていた。写真の横の階級欄には何も書いていない。
「ミスター・キュビワノ、ここは士官専用エリアです。系外雇用者(ノン・アーサー・エンプロイー)の方は、申し訳ありませんが退出してください」
「ご丁寧にどうも。認めるよ、残念ながらおれが少佐じゃないことは。でも見てほしいんだが、十七の時から地球のために働いてる。なのにタダ酒の一杯も飲ませない気か?」
 バーテンダーは、助からない死にかけの動物を見るような目でおれを見た。
「あんた、ここへ来てから何杯飲んだかも思い出せないらしいな。まだ仲間でいたかったら今すぐ出ていけ。それか、上着を預かろうか〝ミスター・ニー〟」
「なにか問題か?」
 おれがバーテンダーを殴る前に暑苦しい声が響いた。忠誠心と大胸筋ではち切れそうな制服と、その胸のマシュー・P・ジョーンズ少尉という立派な地球の名前からおれが顔をそらすと、おれの左耳のインダストリアル・ピアスに少尉は眉を顰めた。そしてすぐにタブレットに視線を移すと、さっさとおれを連れ出して事態を処理しようとした。
 ふらつきつつもおれは我ながら素早く身をかわして椅子から降り、少尉の筋肉質の腕から逃れたうえに転ばずにいられた。
「バーに来たときは少し職務を忘れるべきですよ、少尉」
 ジョーンズ少尉は一瞬こっちを睨んだが、自分を貶めることはないと思い出したのか毅然と背筋を伸ばして、施しをするかのように言った。
「自分の船に戻れ、調査員。きみの奉仕には感謝している」
 おれは間違っていると思った。わかっていたから。その程度の言葉で引き下がるべき現実も十二年間の事実も、事実に怒ることも。だからおれは間違っているのを承知で少尉の顔を殴り、周囲がどよめいてバーテンダーは今すぐおれを除隊させるためにセキュリティを呼ぼうとし、何人かの士官は加勢しようと席を立った。
「誰も余計な体力を使わなくていい」自分の声のデカさに驚き、おれはトーンを落とした。「奉仕する気なんかなかった。見返りがもらえないとわかったから降りたんだ。そのつまらないデータベースもすぐ修正されるはずだ。おれは自分の意思で軍を辞めた」
 もう必要ない制服の上着をバーの床に脱ぎ捨てて、自分の腕にある植民星の一つを表すタトゥーを見せつけながら、おれはその場の全員がよく聞こえるように言った。
「二度と、こんなクソ連邦軍には勤めないと誓う。あんたらにも今後一切迷惑をかけない。ご安心を」
 おれはくだらない地球連邦軍士官専用のくだらないラウンジを出て行った。

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